教育と宗教
「スポットライト 世紀のスクープ」(2016年)を観た。
アメリカのボストンでの実話を映画化。カトリック教会神父による少年・少女への性的虐待を地元の新聞社が長期の取材、神父全体の約6%にも上るという研究者の声も得て、1500人中、87人の疑いある神父を見つけ出し、70人による加害を暴露した話である。 その中で被害者だった元少年が次のように語る。経済的にも愛情的にも貧しい家庭で育った子どもにとって、教会は別世界であり、そこで神父に認められることは有頂天になる。そこに性的虐待が行われると、信じられない、ましてや告発することなどとてもできない、教会に送り出した近親者にすら認められず、逆に非難すらされかねないような状況に置かれる。神父に逆らうことは神への裏切りでもあるからだ。そうした自分を愛せず、やがて自死した被害者も少なくない。語ってくれた今や大人は自身を「生き残り」と称した、壮絶な話である。 巨大な力を持った/持つと思わせる神父による虐待という構図は、韓国での実話を映画にした「トガニ-若き瞳の告発」(2011年)を思い出させる。聴覚障碍をもつ子どもたちを集めた全寮制の私立学校で、何と校長を始めとした教職員による、生徒たちへの性的虐待が行われていたのだ。 権威の存在、それを自明として自律できない指導者、彼らを庇護し事件を隠蔽する組織-これは教会に限らず学校についても当てはまるのではないだろうか。 最近、こんな教師が中学校にいたと元生徒から聞いた。生徒を日常的に殴っていたその輩はこう話していたそうだ。「殴られたおまえの痛みはじきに消えるが、おまえを殴らなければならなかった俺の心の痛みは消えることはない。」-まあなんと便利な言い方だろう。 昨今、教職は高度専門職にふさわしくあるべく、コンピテンシー論や教員育成指標の策定と、まるで能力のパーツを組み合わせれば「教員がひとり出来上がり」かのような話にもなっている。けれど、教育という労働上、どうしても認められる「教育上の自由」をうまく制御できる自律性こそ、専門職のゆえんではないだろうか。 「そういう規則になっているから」とか「時代がそう求めているんだ」と、他者のせいにしないで、自分で考え、ふりかえり、他の意見にも耳を傾け、行為できること、それを支える使命感や潔さをいかに担保するか。「自信たっぷりに、揺るがぬ信念をもって」ではなく、「こわごわと仕事をする」ことの大切さを知っていること、そもそも知る力を持っていることが、けっこう重要ではないかと思う。
by walk41
| 2018-05-04 23:34
| 映画・ドラマ
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