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音楽教育のスタンダード論(ドイツ話題)①
21世紀に入ってすでに久しいが、この間、日本でも公教育の質保証、数値化ほか客観化されたエビデンス(証拠)重視、といった主張のもと、学校教育としての達成すべきスタンダード(基準)が発表され、またこれに対して議論がなされている。
この背景には、児童・生徒によって学び方は多様であり、生涯学習とも言うのであれば、学力や意欲、態度などが短期的に測定、評価されうるはずもないという立場と、投じている様々な資源を有効かつ効果的に活用してこそ、公教育としての責任を果たすことができるという立場との葛藤がある。 この帰趨はどのようだろうか。それは、主要教科などとも呼ばれる領域ではないところを見ることで明らかになるだろう。なぜなら、主要教科には、歴史的に3Rsとも称されてきた「読み、書き、計算」があるが、これらは、実際の生活でも必要性が高く、何らかの基準や目標は必要であり意義あることと考えられてきた点で、現在のスタンダード論との親和性が高い点で、上記の葛藤が少ないと考えられる。 これに対して、実技科目とも呼ばれる芸術、音楽、スポーツについては、いわゆる「生まれつきの得手不得手」もあるかのように言われる面もあり、また個人の好みや偏りも少なくない領域と見なされることから、基準を立てることには大きな抵抗があると推測される。はたして、この領域で達成すべき目標を、さらにそれをコンピテンシー(遂行能力)として求めることができるのだろうか。また、それはコンピテンシーや広く学力の捉え方にどんな影響を与えるものだろうか。 こうした問題設定から、以下、ドイツでの資料を複数回に分けて紹介したい。それは“Musik und Bildung-Die Zeitschrift für Musik in den Klassen 5 bis 13(音楽と教育ー5学年から13学年における音楽誌)という季刊の雑誌に、「音楽科におけるスタンダード」というテーマで意見が開陳されているものである。ここでは、中等教育段階での音楽教育を前提にしていることを踏まえる必要があるだろう。まずは拙訳を行い、その後、議論を試みたい。 ーーーーーーーーー Musik und Bildung 4/2004、56-63ページ。 討論ー音楽科のスタンダード① Johannes Bähr スタンダードー議論の前提と目的(前半) 普通教育学校での音楽の授業が成功しているならば、スタンダードに関する議論は不要だっただろう。成功しているとは、学ぶほぼすべての者が少なくとも数年間ー予定されている授業時数のようにー比肩に値するまた質的に高い学習機会を得ていることであり、それが音楽的能力、達成、知識や視野を持続的に確かなものとするのである。 こうした成功した音楽の授業を想定することがほとんどできないのは、経験的に明らかである。またその原因もせいぜいのところ部分的にしか明らかでない。量的には、教員不足と恐ろしい授業時数から、隙間だらけで、多くのところで十分な音楽の学習というには不十分な状況である。どれだけ多くの子どもと青少年がほんのわずか、あるいはまったく音楽の授業を受けていないことだろう(どれだけの授業不足が起こっているかの研究は残念ながら知らないが)。質的に見れば、著しく不均一であり、音楽的技能や知識への持続的効果をほとんど見込めないものが大半であるーこれまでの残念ながらごく僅かの実証研究から、そのように推測しなければならない。 これらを踏まえると、スタンダードをめぐる議論は方略に関するものと、内容に関するものの二つのテーマを立てることができる。まず方略に関しては、スタンダードが国家/州によって拘束力あるものとされるならばーそうでないのならば、何ももたらさないからー論理的帰結として、すべての者に対する適切で同様の条件を作り出すことをも義務づけるものとなる(加えて、十分なスタッフ、時間、教員の養成と研修、施設設備)。それが適切に運営されなければ、スタンダードと結びついているコンピテンシー(遂行能力)は達成されえない。よって、方略上の議論のゴールは、比肩に値する良い諸条件を創出することである。 また、内容上のテーマについて、スタンダードは教育ドメインでの音楽科に関する集中的な義論を通じてのみ確立され、適用されうる。音楽の授業でしべての子どもに何が(少なくとも)学ばれるべきか、が議論されるべきだろう。それは、教育内容と教員の養成・研修に大きな影響を与える、教育方法上の結論とコンセプトに関する実際的でで実現可能な音楽教育の目的についてである。よって、スタンダードに関する内容面でのゴールは、音楽教育のさらに質的な発展にも繋がっている。
by walk41
| 2018-05-25 17:32
| ドイツのこと
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