学校・教職員の現在と近未来 Gegenwart und nähere Zukunft der Schule und ihrer Mitglieder

カテゴリ:研究のこと( 103 )

共通理解の難しさ

専門学会の国際フォーラムに参加した。

外国の方からのいずれの報告も興味深かったが、強く思ったのは、それぞれの国が持つ歴史的背景についての理解が乏しければ、たとえ現在のことに限ったテーマであっても、とても十分には理解できないということだ。

当たり前のことだからと、相手は分かっているだろうと話をすることを、文脈依存ともいうが、文脈が共有されていなければ、片方にとっては何のことかわからない。その多くは「何となく」そう思ってしまうことなのだけれど、あまりに馴染んでいるために、自分では疑問に思うはずもないことが、聞く側にとって難解なのだ。

この点で、グローバル化への対応とは「外国」のことを色々知るに限らず、自分がいま知っていることを相対化することでもあると気づける。自身が知らないうちに身につけている文脈、習慣(ハビトゥス)を新鮮な目で見直すことのできる力を得ること、それがグローバル社会で生きて働く力とも言えるだろう。

いずれにせよ、学ぶとは自身が変わることを包含している。そのための勇気について想像することなく、学びは面白い、大切だとのみ嘯く輩がいるとすれば、それは教育ー学習関係に関する考察をまったく欠いていると言ってよい。わかる、学ぶ、変わることの魅力は、恐ろしいことと表裏一体である。この点で、知らぬが仏とはよく言ったものだと思わされる。

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by walk41 | 2018-05-20 20:58 | 研究のこと | Comments(0)

研究が活きるということ

倒れた市長を介抱しようと、看護師の女性が土俵に上がった際、「女性は下りてください」と繰り返し場内アナウンスが流れた舞鶴市での件をきっかけに、土俵と女人禁制の関係が論じられている。

その報道の際に紹介された論文、吉崎祥司・稲野一彦「相撲における『女人禁制の伝統』について」(『北海道教育大学紀要 人文科学・社会科学編』59-1、2008)を、読むことができる。http://s-ir.sap.hokkyodai.ac.jp/dspace/bitstream/123456789/933/1/59-1-zinbun-06.pdf

なるほど、相撲が神道と長い関わりのあることは事実だが、女性が土俵に上がることが認められていなかった「伝統」は確かめられず、それどころか、反対に、女性が力士として相撲を取る様子が描かれる記録が残されているというのは、けっこうな驚きである。

くわえて、日本書紀に登場する、相撲に関するはじめての記述が、「采女による女相撲」だという指摘は、日本相撲協会の話がむしろ逆さま、つまり相撲は女性によって始められたのではないかとすら思わされるほどである。
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また、上の絵は、同論文の76ページに掲載されているが、見事なまでに女性による相撲の様子を示している。しかも、これらが例外だったとか、禁止されたという話ではないことが興味深い。

さて、この論文は次のように締めくくっている。「『相撲は神道との関わりがあるから女性を排除する』というような論理は、明治以降に相撲界の企図によって虚構されたものと考えられるのである。」(同、p.86)

この論文が発表されたのは10年前、それが昨今の出来事をきっかけに読まれている。「すぐ役に立つ研究」流行でもあるけれど、「いつ役に立つか必ずしもわからない研究」もまた重要なことを、今回の件は示しているだろう。










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by walk41 | 2018-04-08 12:49 | 研究のこと | Comments(0)

新刊書のお知らせ

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教育課程はおよそ専門分野ではないのですが、いわばお手伝いとして関わった本ができあがりました。大学で多く遣われて、この度、9年ぶりの改訂を行ったものです(山﨑準二編『教育課程 第二版』学文社、2018)。

この中に「諸外国における教育課程の現状」という章があり、ドイツについて記しました。2000年初頭の「教育スタンダード」の登場とその後の運用、公教育の質的保証と追跡、そして事例の州における教育課程の概要(2016/2017年版)を紹介しています。

昨年秋に、この本が改訂されるという話をうかがい、どこまで手を入れればいいかと思案しましたが、彼の地でも教育課程(学習指導要領)が改訂されていることもあり、部分的な手直しではすまないと、約10000字すべてを書き改めました。

できあがって献本があり、他の章を含めて斜め読みしましたが、書き直して良かったと思います。中途半端なことをしなくてよかったと。

ご興味のある方は是非、手にとってくだされば幸いです。

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by walk41 | 2018-04-06 22:51 | 研究のこと | Comments(0)

論文が出来上がりました

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森脇正博・榊原禎宏「教員の『わいせつ行為』に関する統計的再分析ー学校種間の発生率の検討」(京都教育大学紀要、第132号、201803)が出来上がりました。

文部科学省と警察庁のデータを用いて、教員による「わいせつ行為」の発生率を16年間分、調べたものです。同様の論文をこれまで二本書いていますが、今回は、学校種の違いを明らかにしたことが「売り」の一つです。電子データ化されたものが、じきに京都教育大学のページ上に載りますので、ぜひご一読を。もちろん、紙媒体ならば、すぐにお渡しすることができますよ。

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by walk41 | 2018-03-27 17:41 | 研究のこと | Comments(0)

新刊案内

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今月末に発刊の運びとなりました。「教育をひらく研究会」と称して、大学を跨ぐメンバーで年に3回、勉強会をしており、その一つのまとめとして、ようやくこの形になりました。5人の論考が納められています。表紙はドイツの中等学校の生徒たち、休み時間の様子です。彼の地の学校の雰囲気をよく伝えていると思います。

Amazonのページに入っていただき、この書名で検索してもらえれば、今ならば予約注文ができます。税込みで1500円です。ともすれば当たり前に見える公教育を各テーマから問い直し、組み直そうという試みです。その狙いに成功しているかどうか、ぜひご高覧願いコメントをくだされば幸甚です。どうぞよろしくお願します。


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by walk41 | 2018-02-12 17:25 | 研究のこと | Comments(0)

除籍の不細工さ

所属している学会から総会での資料が送付されてきた。忙しさを理由にすっかり参加をかまけており、いわば幽霊会員化しているのが恥ずかしい限りだ。

さて、この資料の中に会員異動が載せられており、入会、退会、除籍と名前が連ねられている。入会、退会の意味はわかりやすいだろう。では除籍とは何か。学会にもよるだろうが、ここでは学会費を3年間未納の結果、会員資格を失った状態を指す。

ここに至るまでに、学会事務局は毎月のように活動ニュースを送り、紀要(ジャーナル)を郵送し、会費の納入通知を行い、納入督促を繰り返している。にもかかわらず、音信不通で時間が流れたという面々が、除籍リストにある。もっとも一部には連絡先不明となる場合もあるが、現職であればこのインターネット時代に連絡がつかないことはない。

なのに、である。某私立大学の「熱血教授」としてアピールされている某氏がここに挙がっているのだ。同大学のホームページ上で、学生の声として紹介されてるのは「理想の教師です。」冗談ではない。所属した年度分まで会費を払って去る人たちが一方でいるのに、知らんぷりを決めてやり過ごしたなんて、どれだけ不誠実な人物かと思う。この手続きに至るまでに払われた犠牲、他者の痛みを想像することができないのだ。

学会を除籍になるなど、関係のない人にとっては何のことかという話だけれど、ここでいい加減な輩を信用することはできない。学会費を払うのを忘れていればまとめて支払う、もう辞めようと思うならば未払い分を払って終わる。大学教授ならば難しいことではない。なのに、この金額とちょっとした手間を惜しんだのである。

そんな人物が「いじめが…」「学力が…」といかにわかったふりをして述べようとも、それ以前の段階である。「細部に真理は宿る」ことを示すケースだと受け止めた次第だ。

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by walk41 | 2017-12-07 18:34 | 研究のこと | Comments(0)

非標本誤差

吉村治正『社会調査における非標本誤差』(東信堂、2017)を斜め読みした。

非標本誤差とは、母集団が小さいことによって生じる標本誤差以外を指し、調査における用語の定義の曖昧さ、調査員の誤解や調査員が調査対象者に与える印象、回答者の誤解、虚偽、拒否、集計時のミスなど、調査の設計、実施、集計のすべての段階で起こりうる誤差を意味する。

自然現象を捉える調査ならば、対象が調査内容と調査者に影響されることは少ないので(いつ梅雨入りするかについて、お天道様が人目を気にしないように)、非標本誤差を考慮する必要はないが、社会現象を捉えようとする場合は、このことに留意しすぎることはないと強く思わされたのだ。

たとえば、ダブルバーレル(double-barrel)は非標本誤差の一つである。一つの文章に複数の意味が含まれているので、回答者がどの点を理解して答えたかがわからなくなる。

学校評価に即して事例を挙げれば、「学校は、生徒に社会生活におけるモラルやルールを守る態度を育てようとしている。」(奈良県内の学校)という項目がある。ところが、モラルとルールは別物なので(他者に親切にすることはモラルだがルールではない。自由主義的な立場からは、モラルこそ大事だがルールはできるだけ不要とされる)、真面目に答えようとすると無回答になる。あるいは折衷案のように「だいたいそう思う」といった誤った回答をしてしまう。

あるいは、「学習指導要領・府教育振興プランに基づく学習活動について研修と実践がすすめられた」と教職員の8割以上が実感できれば「B」とする」(京都府内)という自己評価の項目がある。これは研修と実践という二つの内容が入っている点でダブルバーレルだという問題に加えて、「実感できれば」という(まあ仕方ないのだけれど)まったくの主観的なことについて回答を求めるものとなっている。「幸せか」「将来に悲観的か」と人間の主観について調査することはあるけれど、ここでの問題は、学校評価として答える職員は「実感していると答えた方が無難だよなあ」と考えがちと推測するだろう項目という点である。「あなたは頑張って働いていますか」と尋ねられて「いいえ」とはなかなか答えないだろうように、期待される結果を踏まえて回答する可能性が相当残ることも、学校に関わる調査ではたくさん見つかることだろう。

こんな風に考えていくと、そもそも非標本誤差を回避できる社会調査はどれほど可能なのか、と疑問がわく。それどころか、非標本誤差が著しく混じった調査結果が所狭しと跋扈していないだろうか、本当はそうではないのにあたかも真実かのように喧伝されているようなことはないだろうか、と不安が高まる。

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by walk41 | 2017-12-02 20:58 | 研究のこと | Comments(0)

宣伝です

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大学院生を主な対象としたテキストができあがりました。編者が相当に練ったコンセプトをもとに、執筆者がそれを受け止め、記したものと自負しています。この中で私は「意思決定とリーダーシップ」を著しました。

ぜひご一読をお願いしたく、お知らせする次第です(高見茂・服部憲児編著『教育経営』協同出版、2017.10)。




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by walk41 | 2017-11-09 20:30 | 研究のこと | Comments(0)

人文・社会系学問のミッション

基礎・基本を身につけるべきだからと、高校生まで「正解探し」に追われてきた学生が、大学に入ったのだから「正解」なんてないんだよと、逆方向に近いようなスタイルを求められるのは、少しかわいそうにも思う。けれど、大学生(最近、聞いたことだが、某大学院生たちは、自分たちのことを「生徒」と話すという。世も末である。)であるためには、その負担や痛みに耐える体力が必要だろう。

自然現象を対象とする理科系についてはわからないけれど、大方が人間の生み出した、人為的なものを対象とする人文・社会系については、人為的な行為や所産はこれまでどのようであり、またどのように捉えられてきたのか、それはどんな価値観や規範等に支えられてきたのか、それはいかに変えよう、変わりようがあるのか、を主な問いにする。

そんな作業がなぜ必要なのか、という質問に答えるならば、私たちは生物的ほか自然科学的に規定されているだけでなく、自身が作り出した文化、芸術ほか社会と呼ばれるものに大きく影響され、また影響を及ぼしているからだ。自分たちを理解したいという欲求から、私たちは人間に関わる諸々を捉え返し、分析、評価、新たに構想するといった作業を繰り返している。

だから、学問をするとは、問いを学ぶ、ともすれば馴染んだ言葉や事実を取り上げ、いわばマナ板の上に載せて、分析することである。開発や応用という分野もあるけれど、そのためにも、なぜ今そうなっているのかを知る必要がある(たとえば、キーボードの配列)。

当たり前に見えがちなものを問い返す作業は、相当の労力を伴うし、それを続ける自身を保つためのマネジメントも求められる。だからこそ思考体力とも言うのであり、根気強さや我慢強さが重要でもあろう。こうした体力を学生にはぜひ養ってほしい。大して勉強もしておらず、ましてや考えもしていない一方、知ったかぶりの決めつけをするようなことをできるだけ避けて、慎重に丁寧に手間に臨んでほしい、と言う所以である。

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by walk41 | 2017-10-18 23:02 | 研究のこと | Comments(0)

発言/表現することに対する責任

小学校で管理職をなさっているKojiさんから、複数回コメントを頂戴した。ありがとうございます。

その一つ、「教え子を戦場に送るな」と記した拙記事について、本旨とは外れるがと断わられた上で、

>憲法改正が現実味を帯び、本気で意見をぶつけ合わなければならない時なのに、教員は公務員であるがために言論封殺。その前に各自の考え自体を持たない、正否を調べようとしない、偏った教えを子供達にすることは、もちろん行けないと思うが、教えてはいけないと言うことと、考えを持ってはいけないと言うことは、全く違うことのように思えるが、現実はそうではない。歴史問題しかり。教える側の教師が正しい知識と見解を持ち合わせずして物事の本質の何割を教えられるのだろうか。

と述べられている。このことをどう考えればいいだろうか。

いま、あるテーマの関係で、大学人のキャリアを少し調べている。その中に、エネルギー教育に関わる人がいたが、その方の名前を検索していたら、「とんでもないことを発言していて許せない」旨をブログで、名指しで非難する人のページを見つけた。福島原子力発電所の事故を受けて、あんな大惨事を引き起こしたのが「原発安全神話」でもあったのに、今なお、市民がエネルギーについて適切に理解することが大切だと述べるなど、その無責任ぶりに腹が煮えくりかえる、と言うのだ。

こんな一文に接するに、研究職はもちろん教育職も(この両者を兼ねている立場はいっそう)、自分は何を発信しているのか、表現しているのか、それは広い意味でどんな社会貢献に繋がりうるかを問わなければと知らされる。

もちろん、世の中の多くの事柄は、これが正解というものは少なく、時代や地域、立場などによって事柄自体の見え方も一様でないから、それらの交通整理を促すことも、立派な社会貢献だ。いたずらに正義を振りかざさないためにも、認識の段階ですでに慎重であるべきだろう。

その上で、何かを発言、発信することに伴う責任を引き受ける覚悟も必要となる。あとで「なんか、そうじゃないかなって思ったんで」とか「そういう言い方がもてはやされた時代だったでしょ」と、責任回避や転嫁をしない強さを持たなければ。

そんなふうに後々、責任が問われるようなテーマに臨んでいるか、火の粉が及ばないような「安全」なところでお茶を濁してはいないか。あるいは、大人であることの絶対的優位に乗じた「子ども相手の仕事」をしてはいないか、さらには、相手がすでに大人であっても、成績評価者であることに甘えて、いい加減な授業や応対をしてはいないか。

「学問の自由」や「教育上の自由」がそれなりに認められているのは、それを行使する者に自らを律する力のあることを前提にしているからである。なのに、雑談、放談や暴言を省みない態度(自分に甘く他者に厳しい)、あるいは、無頓着や迎合、歓心を買うさま(自分に甘く他者に甘い)という表現に陥ってはいないだろうか。使命を忘れ、納税者を忘れた「給料泥棒」と、誹りを受けないためにも、高い自律性を持つこと、そのための自身の広く修行が求められると、この頃いっそう思う。





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by walk41 | 2017-07-11 16:12 | 研究のこと | Comments(0)



榊原禎宏のブログ(Yoshihiro Sakakibara Blog) 教育学の一分野、学校とその経営について考えます(um die Schule und ihre Verwaltung und Management)
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